コント 「個人的に宇宙」
A.B中央から少し離れて等間隔に立ち、回り出す
舞台明転
少しして同時に止まり、前を向く
A「話しをしよう」
B「いいだろう。俺の話を聞いてくれ」
A「いいだろう」
B「個人的に、と言いたがるやつがいるだろう。個人的にこれ好きですね、とか。個人的にそれは違うと思う、とか」
A「いるな」
B「私はあれが嫌いだ。彼らは責任から逃げている。自分の発言について誰かから意見されても、個人的に思っただけなので、という逃げ道を作っている。それは卑怯だ、そう思わんか?」
A「…」
B「なんだ」
A「お前の話は小さいな。それこそ個人的すぎる。もっと大きな話をしよう」
B「例えばなんの話だ」
A「宇宙の話だ」
B「ということは宇宙は大きいのか?」
A「宇宙は大きい」
B「私はそうは思わない。なぜ宇宙は大きいのだ」
A「我々はいま地球にいるだろう。その地球は太陽系にあるだろう。その太陽系は銀河系にあるだろう。しかし宇宙には数多の銀河系があるのだ。それくらい宇宙は大きいということだ」
B「果たしてそうなのか」
A「なぜ分からないのだ、間違いなく宇宙は大きい」
B「しかし宇宙とは時間、空間内に秩序をもって存在する、(こと)や(もの)の総体であり、何らかの観点から見て、秩序をもつ完結した世界体系であるだろう」
A「そうなのか?」
B「その中で宇宙の大きさについて述べる際、二つの意味があるだろう?ひとつは、物理的な空間に端があるのか、相対性理論が提唱されて以降は空間は曲がってつながっていて端は無いのか、という問題として扱う場合で」
A「まて」
B「なんだ」
A「学問の話だったのか」
B「学問の話だったのだ」
A.B右回りに回り、一回転したら止まる
A「お前は、詳しいな」
B「実は、私は教授なのだ」
A「ほんとうか」
B「ほんとうだ」
A「果たしてそうなのか?」
B「なぜわからないのだ。私が言うのだから間違いない」
A「つまり君は知識を与えているのか?」
B「そうだ」
A「しかし、君は本当に知識を人に与えることなどできるのか。つまり、君は本当に善美のものごとについて理解しているのか、という観点からいうと」
B「まて」
A「なんだ」
B「倫理の話だったのか」
A「倫理、そして哲学の話だったのだ」
A.Bしばらく回り、正面を向いて止まる
A「しかし、なぜ我々は回り続けているのだ」
B「我々には回るほかにないのだ」
A「なぜと訊いているのだ」
B「それは、我々が惑星だからだ」
A「我々は惑星だったのか」
B「そうだ。なにも我々だけではない。誰もが惑星であり、誰もが太陽なのだ。そして誰もが回り続けるしかないのだ」
A「宇宙の話だったのか」
B「宇宙の話でもあったのだ」
A.B回りだし、そのまま回り続ける
舞台暗転